俺様上司は溺愛体質!?

 真屋時臣に知られたらひかれそうだが、考えてみれば十年前から一時も忘れたことがない人だ。浮かれたとしても仕方ない。
 彼に関わるすべてが愛おしいと思ってしまうのである。


 また連絡するというのは、ちとせを外で待たせないための気遣いだとわかっていたが、部屋で待っていられなかった。
 
 だが薄手のストールを羽織ってマンションを降りたところで、マンションの前で掃除をしている管理人のおばあさんに捕まってしまった。

 彼女は大変なおしゃべり好きで、一度捕まるとなかなか離してもらえないと、住人にもっぱらの評判なのだ。

「あれぇ、萩原さんずいぶんとめかしこんでるね。友達の結婚式でもあるのかい?」
「いえ職場の人と食事なんです」
「ふーん……気合入ってるね。ああ……彼氏だね?」
「彼氏!? いや、そんなとんでもない! 私の片思いです!」

 聞かれもしないのに、思わず真面目に答えてしまったちとせだが、管理人はふっふっふと笑いながら、ちとせの周りをグルグルと回り始める。


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