課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜




 お互いのうろ覚えな記憶によると、初めてキスした場所らしい金網の前に真湖たちは居た。

「この辺ですよ、この辺」
と真湖が金網をつかんで言う。

「そうか?」
と雅喜が線路を見ながら言った。

「確か、向こうに商店が見え……」

 振り返ると、後ろに居た雅喜が金網に手をつき、口づけてきた。

 そのとき、真湖の後ろを電車が通った。

 その明かりが雅喜の端正な顔を映し出す。

 離れた雅喜は、
「……お前、もしかして、ずっと目を開けてたか?」
と訊いてくる。

「課長、此処から見るとすごく格好いいです」

「此処から見ると……?」

「後ろを列車が通ると、その明かりで」

 整った顔に陰影が出来て、より引き立つと言うか。

 それで逃げなかったのだろうか。
 いや、それだけでもないか、と真湖は笑った。

「きっと此処でカップルになった人、たくさん居ますよ」
と笑うと、

「居るか」
と言われる。

 そのまま、なんとなく手をつないで帰った。


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