偽りの御曹司とマイペースな恋を



「……イツロ君。お弁当作ってくれたの?」
「ああ。俺何時も弁当だから。…不味かったか?」

朝目がさめてのんびりと部屋から出てきたらテーブルには朝食セット。
ベランダにはしっかりとシワなく干された洗濯物。
朝のニュース番組をBGMに台所から温かいコーヒーをいれたマグカップを
持ってやってくる瓜生。そして大小のお弁当箱が二つ。

「ううん。外食とかするほどお金ないし。嬉しい。…んだけど」
「だけど?」
「イツロ君だって忙しいのに悪いなって…」
「俺も弁当だって言ったろ?ちゃんと野菜も食べるんだぞ」
「うん。ありがとう」

元から料理が好きなのと養父が何一つ自分でしないタイプの人なので
彼が代わってこなしてきたらしい。よってお手伝いさん不要なレベルに
家事全般が得意。

機械のように朝は早く起きて家事をこなし、何食わぬ顔で朝食を用意する。
もちろん何処にも手を抜かない。常に時短を目指し研究し、メニューも工夫。
それは凄く尊敬すると同時に彼女としてそれでいいのかという疑問が。

「ほら、冷めるから食べよう」

複雑な気持ちで居たら瓜生に促され席について一緒に頂きます。

「わ。このパン美味しい。もしかしてこのパンも焼いたの?」
「いや。買ってきた。最近教えてもらったパン屋で。でも、今度再現してみるつもりだ」
「やった。期待して待ってよう」
「菜園にも行かないと。任せきりだったからな」
「社長で忙しくて家事で忙しくて菜園で忙しくて。大変すぎる」
「そうか?」
「どれかひとつくらい私がしなきゃ」
「お前は一緒に居てくれるだけでいいんだ。せっかく好きな雑誌の編集部入れたんだろ。頑張れ」
「……一緒にいるだけ?」
「ん?だめか?」
「……ううん。…いいよ」

一緒に居るだけ。なんだろうちょっとだけ違和感があった。

彼との暮らしは自分が望んだことだけど。


「あ。そういえば父さんが会社に顔を出すって言ってたな」
「そうなんだ。というか、今オジサン何してるの?社長業はイツロ君に押し付けてるんでしょ」
「家はあの会社だけじゃないからな。色々と手広くやってるみたいだ」
「そうだった。瓜生財閥恐るべし」
「変なこと言ってないできゅうり食べろ」
「……うう」






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