偽りの御曹司とマイペースな恋を



「もしかして私の様子見に来たとか?」
「ちがう」

社長室に行きたいと言われたので歩が案内することにした。
口で言ったってこの壮絶な方向音痴さんは絶対たどり着けない。

最初、受付の人に聞けばいいのにと言ったら「聞いてこのザマだ」と返された。
古く何処も似たような内装のビルなので余計に一見さんにはわかりづらいか。

聞いてもあやふやで教えてくれないが、もしかして仕事の話だろうか?
それとも父親のことで?彼の養父は趣味でホラーを書いている。

それもサイン会が出来るほどの人気作家。

「ここです」
「ありがとう」
「……」
「後でお前の部署行ってみようかな」
「え。…いいよ、…お仕事頑張ってね」
「お前もな」

たぶん何かしらビジネスの話なのだろう。
秘書を連れていなかったけれど、社長単体で来ることもあるのかもしれない。
歩はその場から離れ駆け足で編集部へと戻る。絶対上司は怒っているだろう。
ので、トイレ行ってたとか何とか適当に言い繕う予定。



「お。名栖ちゃんお弁当?」
「は、はい」

瓜生の様子が気になるけれど、右往左往しながら気づいたらお昼。
手を止めて自分の席につくとお弁当とお茶を取り出す。
他の人は外へ食べに行ったり同じようにお弁当持参だったり。

「ほほーやっぱり女子だね。彩りも可愛い。うちの嫁の弁当ときたら」
「そ、そんなんじゃないです」
「謙遜しちゃって。見習ってほしいよほんと。冷凍食品ばっか詰めやがって」

すいません、これ彼氏に作ってもらったやつなんです。
とは言いづらくてただ笑ってやり過ごす。


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