偽りの御曹司とマイペースな恋を


「いらっしゃい」

緊張しながらもチャイムを鳴らすと出てきたのは母。

「こんな時間にお邪魔して申し訳ありません」
「非常識にもほどがある」
「お父さん」

その後ろから顔を出す父。

「事前に連絡をするつもりだったんですが」
「したらお父さん逃げるもの、それでいいのよ一路君」
「母さん」
「男同士ちゃんと話をなさい。逃げないでね彼は来てくれたんだから」
「……わかった」

続いてやってきた父は渋々という表情で瓜生を客間に通した。
歩と母はお茶の準備をすべく台所へ。気まずい男2人。

「あの」
「俺だって君が嫌いだから言っているわけじゃないんだ。
その若さで社長なんて立派だよ。ただね、歩は恋人だの同棲だのというのは
まだ早いと思うんだ。その場の勢いとかでよくわかってないのに付き合うとか
同棲とか言ってしまったのかもしれない。若いとあるだろそういうの」
「……」

沈黙に耐え切れず切り出した瓜生よりテンパっている父が喋り出す。
でも怖いのか目をあわそうとせず庭ばかり見つめているけれど。

「歩がそんな軽率なことをするとは思えないが君とは昔からの縁があるようだし。
それでほろっときてしまったのかもしれない。だけどね、あの子は最近まで
儀式をしたら邪神とかいうのを呼べると信じてたような子なんだ。
恋愛なんてそんなものを分かっているとは」

それが悪いなんて思ってない。

けど、恋がなんたるか、異性がどういうものか

付き合っていくうちに大事なものを失うかもしれないのに

あの子がきちんと分かっているとは思えない。知識がないままに雰囲気で付き合って
下手に歩が傷物になるのは許せない。もっとちゃんと成熟してからでも
遅くはないはずなのだ。父親の言葉に静かに頷く瓜生。

「俺も、恋愛とかよくわかりません。人付き合いもどちらかというと苦手です」
「じゃあ、お互いいいじゃないか。無理してそんな恋人なんてならなくても。同棲なんて」
「彼女の傍にいたい。それも駄目ですか」
「…だめってわけじゃ」
「社長は父が、いえ、養父が体調がすぐれないので代理でなんとかやっているだけで
俺が彼女に不相応なのは承知です。家の事に巻き込んだりして嫌な思いもさせた。
恋人なんておこがましい。…だけど、…傍に居る事は許してほしいんです。
彼女と居られたら、それでいい」
「……」
「歩といると前向きになれるというか、自分の居場所を見つけられる気がするんです。
男として情けない…ですが」

どうしようもない実母、2度も捨てられて翻弄されるロクでもない人生、
自分の意義も未来も見えない。
何もえらくなんか無い、何も誇るものなんてない、自分は何も出来ていない。

瓜生は父親を前にして飾る事はせずありのままの後ろ向きな自分をさらした。

それでますます彼女とは離れてくれといわれる可能性も大いにあったけれど。
嘘で塗り固めて信頼を得ても意味が無い。きっと何時か破綻が訪れる。


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