一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~

游さんへの思いを振り切るため、私は仕事に打ち込んだ。

隆が抜けた穴は、みんなで埋め合う事になり、私の担当する病院は三つに増えた。

それと合わせて、事務の仕事も並行していたから仕事量は数倍にもなってしまった。

疲れて家に帰って弱音を吐きたくなることもあるけれど、聞いてくれる相手がいない。

「ねえ、天野。痩せたんじゃない?」

 菱沼さんは心配そうに私の顔を覗き込む。確かに体重は減った。食欲もなくて、今日は朝のコーヒーすら半分残した。

「そうでしょうか? もしそうなら夏バテかもしれないですね」

 私は笑った。笑う力さえ残っていなかったのに、会社では笑顔でいたいと思っていた。

「じゃあ、外回り行ってきます!」

 会社を出たのは午後三時。担当先の病院の外来が終わる時間をめがけて営業に行く。

最近は新規開拓をするために、担当の病院以外にも足を運ぶようになった。今日は新しい病院へ行くことになっている。

初めての病院は勝手がわからない上に、初対面の医師と話さなければならない緊張感で胸が張り裂けそうだ。

私は受付で許可証をもらい、製薬会社の営業マンに混じって医局のある廊下に立つ。

カバンの中には会社の製品のパンフレットがぎっしりと詰まっている。そのカバンが今日はやけに重く感じて、私は床に降ろそうと屈んだ。

ひと息ついて立ち上がろうとしたけれど、体が言うことを聞かない。

「……どうしたんだろう、急に眩暈が」

冷汗が滲んだ後、徐々に目の前が暗くなり、私はそのまま意識を失ってしまった。


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