一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
その時、かたんと椅子の倒れる音が聞えて驚いて振り返る。
するとカップルの女の子が立ち上がり、泣きわめきながら男の子の頬を叩いた。
別れ話にでもなったのだろうか。
女の子を落ち着けようと男の子がなだめるが、その手を振り払いながらまだ泣き続けている。
心配ではあったけれど、このまま見ているわけにもいかず視線を戻そうとした、その時。女の子は苦しそうに胸を押さえて床に崩れ落ちた。
店内はざわめきに包まれる。
「游さん」
不安に駆られた私は游さんを見た。
「大丈夫。過換気だと思うから」
「か、かんき?」
「そう、ああ、過呼吸って言えばわかる?」
立ち上がった游さんは女の子に駆け寄った。
うろたえる男の子をなだめながら、女の子に声を掛けている。
女の子はずいぶん苦しんでいるけれど、大丈夫なのだろうか。
私は不安で胸が押しつぶされそうになりながらも、游さんがいれば必ず助かる。そう信じていた。