一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~

 私が物流センターに来てひと月以上が経った。あれから游さんとの関係に大きな変化はなかったものの、そんな平凡な生活が今の私にはかえってありがたかった。

七月の半ばを過ぎたというのにまだ梅雨はまだ宣言されていないのにもかかわらず、このところ真夏日が続いている。うだるような暑さの中、伝票を手に倉庫から納品用の人工呼吸器二台を確認して配送業者に委託した。送り先は新しく開院した大きな病院だった。

「無事に納品されますように」

 走り去るトラックにそう声を掛けて、私は事務所へと戻った。わが社の規定では、納品時に担当営業とエンジニアが立ち会うことになっている。

ふと伝票を見ると、営業担当者の欄に隆の名前があった。こうした新規の病院で契約を取ってこられるのも隆の腕だろう。若くして次長にまで上り詰めただけのことはある。

 デスクに腰を下ろし、何気なく時計を見ると十時になるところだった。私は給湯室へ向かうと、つくっておいた麦茶のボトルを冷蔵庫から取り出した。

「センター長は氷なしで、蓬田さんは冷たいものは飲まないから緑茶でいいかな」

 あれだけ抵抗のあったお茶くみも、今は率先してやるようにしている。こうすることに未だ納得はしていないけれど、意地を張っていることに私が疲れてしまったのだ。

「いつかはセルフサービスにしてやるんだから」

 今は給湯室に自分だけの美味しい茶葉を用意して、こっそり楽しむのが唯一の愉しみだ。そうでもしないとやってられない。

菱沼さんは私が本社に呼びもされるのも時間の問題じゃないかと言っていたけれど、あれから音沙汰がないことから考えると、やはり無理なのではないかと思い始めている。

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