こちら、私の彼氏です
「もしもし。はい、伊山です」

「ちょ、伊山⁉︎」

「はい。はい。そうですね、今週の金曜日でよければ大丈夫だと思いますよ」

「え……?」

「はい。では、時間とかはまた夕香の方から連絡させますので。はい、ではまた」

そう言うと、伊山は通話を終了し、携帯を私に返す。



……いや、突然のことに、ちょっと状況がよくわからない。




「……コーヒー飲もうと思って営業室出たら、お前が電話してるのが聞こえて。会話的に、昨日の子が俺を紹介しろって言ってるんだってわかったから」

「だ、だからって……」

なんで、ウソに協力なんてしてくれるの?
相手は私だよ? それに、伊山にメリットはなにもないのに……。



すると伊山は。




「……俺だって、女を泣かせればいくらなんでも心が痛むんだよ」

「え?」

「だからその詫びだ。もう一回くらい、ウソに付き合ってやるよ。

つーかお前、何度も謝ろうとしたのに俺のこと避けるし」

「それは……そのごめん。でもべつに、昨日私が泣いたのは伊山のせいじゃ……」

「俺がちょっとキツいこと言っただろ。直接泣いた原因はそれじゃなかったとしても、キツいこと言ったのは事実だ」

「で、でもそれを言ったら、そもそも嫌なことを言ったのは私で」

「いいから。同じ店で働く同期同士、マジでケンカして口きかなくなったら寂しいだろ」


え……?


「じゃ、約束は金曜日だからな。時間とか決まったら教えて」

「う、うん……」

「あ、いや。付き合い始めたきっかけとか、告白はどっちからとか、そういう設定も決めとかないとボロが出るな。とりあえず今夜LINEする」

「う、うん」

じゃあな、と言って伊山は給湯室に向かう。



……お詫び、か。昨日泣いてしまったのは、本当に伊山のせいってわけじゃないんだけど。



……ていうか、私と話せなくなったら寂し、なんて……。
もともと距離感があったし、さらには昨日の一件でもしかしたら本当に嫌われたかもとも思っていたから、そんな風に言ってもらえたのは、素直に……うれしい。



……伊山、今晩LINE、待ってる。



……ありがとう、ほんとに。
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