こちら、私の彼氏です
愛理のことを心配しながらも、まずは目の前のミスを直さないといけなかった。



二十一時を回った頃、同じくまだ営業室に残っていた伊山に、ふと話しかけられた。



「まだ終わらないのか?」


……あんなことがあったのに、伊山はこれまでと変わらない様子で普通に接してくる。ありがたくもあり、腹立たしくもあった。



「帰れない。ほっといて」

「俺もう仕事終わったから、なにか手伝う」

「いい。ひとりでやるから先帰って」

素直さは、もう捨てた。


「そりゃ、振込のオペレーションとかわからないけど、教えてくれりゃその通りにやるし。帰る時間遅くなったら危ないし早く終わった方がいいだろ」

「もっと遅い時間に帰ることくらいしょっちゅうあるし! いいからほっといてよ!」



……伊山に対しては、ほかの誰よりもとくに、素直になる必要がもうない。

それにくわえて、愛理のことにもイライラしていたのもあり、私は思わず大声を出してしまった。

幸い、営業室に私たちしかいないタイミングだったから、ほかの誰かに聞かれることはなかったけど……。



「……」

伊山はもうそれ以上はなにも言わず、カバンを持って営業室を出ていった。帰ったんだと思う。



ーーせっかく心配してくれたのに、ろくに目も見ずに突き返しちゃった……。
今日の私は、本当に嫌な奴だ。愛理に対しても伊山に対しても、ひどいことばかり言ってしまう。




ミスの直しを終えて、私が会社を出ることができたのは、伊山が帰ってから一時間後のことだった。
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