最果てでもお約束。
鎖国とスパイと日本刀。
「あーどうもこんにちわ~」
のほほーんとした声の割にはどこか自分の目指すナイスミドルな声で現実に引き戻される。
「ちわっす・・・あ」
やっぱり白昼夢みたいな過去シーンに浸った直後というのはどうも脳がうまく回転しないみたいなのは古今東西いつでもそうで。
ついついなんの警戒も無しに挨拶なんてかましてしまった。
こっちには訳アリ旅人をかくまっている(?)というのにだ。
「まだおはようですよぉ。お兄さん、線細いけどちゃんと食べてるの?」
顔だけは知ってるおばちゃん。左手には・・・やっぱり携帯。
「いやーあんま食べてないっすねぇうわはははは」
その如才の無さがぼくにも欲しい。
「見ない顔だけど・・・?」
”こいつは誰だ?”とおばちゃんの目がぼくを見る。
「親戚です。ネット配信の普通科高校に進学したんですが、授業の開始まで少し間があるみたいで」
「そうそう、ネットが使えるようになるまでやること無いからちょっと遊びに来てましたぁ」
ナイス。だが、それでは完全にはかわせないぞ。
「そうなのぉ・・・この町は初めて?今までも見た事無いけど?」
小さな町だからねぇと言っておばちゃんは笑う。はん、どうせ”来た事ある”って言ったら町のディープな話しでもして探りを入れるつもりなんだろう?
「ずっとぼくの方から滋賀に行ってましたから。高原が好きで」
「ほんと!こうは牛の乳搾り大好きだもんねー」
にやにやと顔を覗き込んでくる。やろう、さすが旅人。機転が利く。
ぴりぴりぴり、とおばちゃんの携帯から着信音。この短めの音はきっとメールだ。
慣れた手つきで一瞬にして二つ折りの携帯を開き・・・そして閉じた。
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