最果てでもお約束。
「・・・・・・あ」
左足のアキレス腱を断ち切って、鉈が足の半分まで食い込んでいた。
「あああああああああああああああああああああ」
左足を見ながら、この鉈を抜こうかどうしようか迷っているうちにその鉈の柄は捕まれる。彼に。
「あ」
男の足から鉈を抜いてぼくと同じように這いつくばっている男の顔を討つ。
鈍い音がして、後はゆうのうめき声だけがそこに残った。
「これで静かになったし、平和だ」
彼とは少し離れていたので、ぼそぼそと言った言葉がうまく聞き取れなかったが多分あっている。
彼がまだ赤い液体が少しついたままの鉈を持ってこっちに歩いてくる。
ぼくはと言えば、まったく身動きが取れずにそこで這いつくばっていただけ。
体が痛かったのもある。でも、それよりもっとぼくの体を縛っていたもの。
それは圧倒的な恐怖と諦め。
もう、ぼくには明日は来ないのだと確信できた。だって、一瞬だけれどぼくの細胞は分裂を辞めたようにすら思えたから。
彼が目の前まで来て、止まる。
びくびくしながら彼の目を見る。何故見たのかはわからない。きっと、あの世で自慢できるとかそんな程度。ぼくは、眼に殺されたんだぜと。
「大声が出ないんだ。あまり・・・眠って無いからかもしれない」
聞き取りにくくてすまない、と彼は頭を下げた。
そして上着の右ポケットから一冊の文庫本を取り出して
「この題名は、なんて読むんだ?」
その時の眼は、なんと言えばいいんだろう?とっくに習った問題が出来ずに教師に嫌々尋ねるような・・・うまく例えれないのだけれど、ぼくには悔し涙を流しそうに見えたんだ。
ぼくはつい
「手は大丈夫?」
なんて噛み合わない事を言ってしまったりして。
彼は無言で首を振り、文庫本を更にぼくに近付ける。
「それは、ささめゆきって読みます」
ささめゆき。小さく呟いて、彼は一瞬だけ微笑んだ。
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