最果てでもお約束。
「こう」
急に名前を呼ばれてどきっとする。
もしぼくがサトリの逆で、考えている事が外に漏れ出していたのならぼくはきっと恥ずかしさで死ぬだろう。
「なに」
きっと赤くなっているだろう顔を伏せ気味で答える。
「ありがとう」
何に対してのありがとうかわからない。
晩飯を食べさせる事に対してなのか、それともさっき身を挺して庇った事に対してなのか。
目の前には靴が見える。よく見慣れ、そして履き慣れた靴。ぼくのお気に入りのハイカットシューズ。
あぁ、これはゆうの景色だ。ゆうはいつも俯いては自分の靴のつま先を見ていた。
あぁ、ゆう。お前はこんな気持ちだったのか?
ぼくと一緒にいて、いつもこんな気持ちだったか?
ごめんな、ゆう。こんな気持ちさせて。あぁ、何か一言欲しいな。気の利いたヤツがいい。この今の気持ちを全部チャラにして笑えるやつ。
でもぼくは感謝される事に慣れていなくて。自分を感謝される価値の無い人間だと思っていて。あぁ、ぼくの顔は今真っ赤なんだろう。
それがただ恥ずかしい。
「こう、ご飯ありがとう」
丁度自分の旋毛の辺りから声がかかる。なぁんだ、そんな事か。
良かったような残念なような。でもこれなら返事出来る。
< 90 / 140 >

この作品をシェア

pagetop