[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。
止まない雨の中、トタン屋根の下で2人、ベンチに腰かける。
雨音がダイレクトに耳に響いてきて、少し大きな声で話さないとお互いの声が聞こえない。
「夜、ここら辺クマが出るんだってさ」
「えっ…嘘だよね」
「いや、マジで。さっきコンビニのおっさんが言ってた」
そう言う割には警戒心の欠片も見せない功。
肝が据わっているのかなんなのか…
ポツポツと言葉を交わすけれど、どれもすぐに途切れてしまう。
少し居心地が悪くて、でも離れたくなくて。
そんな心を誤魔化すように自分の手を握る。