[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。


「功?」


「んー……?」


眠いんだろうな…でも、もう少しだけ。


「ありがとうね、逃避行」


「逃避行っつかさぁ…………これって…」


「ん?なに?」


「……………何でもねえ。おやすみ」


歯切れ悪く言ったまま、黙り込んでしまった。


数分とせずに穏やかな寝息が聞こえてくる。


ありがとう、功。


心の中で何度も繰り返す。


夏が終わる前に、逃避行が出来てよかった。


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