『N』ー忍びで候うー
「郷太、」

決行前の最終確認が終わった。
さあ、持ち場へ戻ろうかという時、一花に呼び止められた。

「なぁに?」
上着を取り上げたところだった。

「七花の訓練をしばらく取りやめにした理由は何だ?」

「そうなの?

って俺、七花にまだ紹介もされてないし。」
ネクタイを締め直していた四ツ谷が口を挟んだ。
それを次郎が「しーっ」と制した。

「急にどうしたのさ、一花?」
僕は上着を羽織るのを止め、再び椅子にそれを掛けた。

「そういえば、お休みの理由は私も知らないですね。」
一花の背後、カウンターの向こうで六車も加えてきた。

「取り立ててどうってことじゃないよ。」

「じゃ何だ?」

三田もメガネをずりあげ、座りなおした。

「みんな興味津々って感じだね。」
僕は大げさに肩を上げて見せたけど、誰も乗ってこなかった。
みんな七花のことに関心があるらしかった。







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