『N』ー忍びで候うー
13.甘いケーキ、苦いコーヒー
あたしの試作ケーキはお客様に好評だった。
喜んでもらえて、また食べに来たいと言ってもらえて、こんなにうれしいなんて。。

このケーキが数日後、大変なことになるとはこの時は思いもしなかったのだけれど・・・




カラン、コロン。
「いらっしゃいま、」
振り向いたあたしは思いきりお日さまの匂いを吸い込んだ。
「もう大丈夫なのか?」
少し眉根を寄せたような一花が入り口に立っていた。
「一花!」家族に会えたような嬉しい気持ちと、懐かしい気持ちがした。
ほんの数日一緒に居ただけなのにそれ以上に濃い時間を過ごしていた気がした。
あたしはトレーを置いて一花の傍まで寄って行った。
そしてその匂いに安心していた。
やっぱりこの匂いだーーー。

郷太がいたら、割り込んできそう、、と思った途端、ぬっと目の前に手が出てきた。
「きゃっ!」
「はいはい、通してくださいね。」
そう言って入ってきたのは、薄いメガネにあたしより少し高いくらいの身長、細身の男の人だった。

「よい、しょっ、、。」
その男の人はなんとかカウンターのスツールに座ると、アイスレモンティーを頼んだ。
「彼も仲間だ。以前、名前だけ紹介したと思うが、三田だ。」
「サンダ、、」
「身体はもういいのか?」
心配そうな眼差しに、あたしは何度も頷いた。
「そうか、、よかった。」




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