『それは、大人の事情。』【完】

「だから、蓮が故郷にある同じホテルでギャラリーに展示する写真を撮ってきたって聞いた時、ゾクッと寒気がして鳥肌が立ったよ。こんな偶然あるのかってね」


本当に不思議な巡りあわせだな……って思いながらその後の二人の事を聞くと……


「うん……姉達は結婚を前提に付き合いたいって母親に言ったんだけど、見事に大反対されてね。ハウエルは日本に永住するから許して欲しいって土下座までしたのに、母親は許さなかったんだ。

で、姉達は取りあえず姉が通っていた大学の近くにアパートを借りて一緒に暮らす様になった。そうしたら姉が妊娠してね……」

「それが、蓮……」

「そうだよ」


それから数年は貧しいながら幸せに暮らしていたんだけど、ハウエルの写真が故郷のイギリスで賞を取った事で穏やかな暮らしは一変した。


大きな仕事が舞い込んできて、大企業のスポンサーもついた。そして、多くの個展開催の依頼も……ハウエルは日本とイギリスを行ったり来たりしていたが、たまたまイギリスに居た時、彼の母親が深刻な病気だと分かり、日本に帰る事が出来なくなった。


ハウエルは蓮のお母さんにイギリスに来て欲しいと言ったが、お母さんはそれを断った。


「どうして蓮のお母さんはイギリス行きを断ったんですか?」

「ハウエルが自分の母親を大切に思う様に、姉も女手一つで自分を育ててくれた母親を残してイギリスには行けなかったんだよ。自分も母親になって、より強くそう思ったんだろうね」


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