『それは、大人の事情。』【完】

"愛してる"じゃなく"愛してた"それは、夢を実現させようとしてる蓮への私からの精一杯のエールだった。


蓮にはこれから輝かしい未来が待っているんだもの……一流の写真家になれる可能性を秘めている蓮をサポート出来るのは、同じ夢を追ってる理央ちゃんだけ。


でもね、どうか忘れないで。君の事をこんなに愛してた年上の女が居たって事を……素直になれず、君を失った事を後悔している女が居たって事を……


きっと私は、ずっと後悔しながら一人で生きていくんだろうな。けど、君が幸せなら……それでいい。だからお願い。必ず夢を叶えてね……蓮。


「もう、会う事ないね。でも、蓮の写真集が出たら絶対買うよ」


笑顔で右手を差し出すと、口を真一文字に結んだ蓮が遠慮気味にその手を軽く握った。


ついさっき、真司さんの温もりを手放した私は、また大切な温もりを失おうとしている。


本当は、この手を離したくないのに……「さよなら……蓮」ニッコリ笑って私から手を離した。そして、何事もなかった様にオーナーと理央ちゃんに声を掛けてカフェを出た。


すると、あんなに青く澄み渡っていた空が、いつの間にか灰色の雲に覆われていて、大粒の雨粒が落ちてくる。


一気に激しくなった雨に打たれ、ずぶ濡れになりながら思う。


このままこの雨に打たれ、跡形もなく消えて無くなってしまったらどんなに楽だろうと……


真司さん、ごめんなさい。あなたとの約束守れなかった―――


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