『それは、大人の事情。』【完】

「はぁ? 娘? いつ産んだの?」

「へへへ……私の娘の写真、見る?」


スマホのアルバムを開き、訝しげな表情の佑月の前に差し出すと、スマホのディスプレイを覗き込んだ佑月が眉を寄せ、露骨に嫌な顔をした。


「梢恵、これって、部長の……」

「そっ! 真司さんの娘の沙織ちゃん、ほら、これ見て! 小学校の入学式の時の写メ。ランドセル背負ってすましてるとこが可愛いのよ」


私と真司さんは、さすがに会う事はなかったが、別れた後も時々連絡を取り合い、沙織ちゃんの写メを送ってもらったりしていた。


夢中になって話していたら、佑月が呆れ顔でため息を漏らす。


「何言ってんだか……他人の子を自慢してどーするのよ?」

「ちょっと、それ酷くない? 沙織ちゃんは、私をもう一人のママだって言ってくれてるんだよ。だから沙織ちゃんは私の娘なの!」


そう、私はもう自分の子供なんて期待してない。だって、彼氏も居ないのに、子供なんて夢のまた夢だもの。


「でも、部長も複雑だろうね。梢恵の幸せの為に身を引いたのに、ハーフボーイに自分の気持ちを伝えないまま別れちゃったんだから……理央のせいで、ごめんね」

「何言ってんの! 理央ちゃんは全然悪くないんだから。いい? 理央ちゃんには絶対に余計な事言わないでよ」

「でもねぇ……」


蓮と理央ちゃんがイギリスでどんな生活をしてるか……佑月は知っている。でも佑月は、その事を一切口にしなかった。だから私もあえて何も聞かなかった。


きっと、蓮はもう私の事なんか忘れて、理央ちゃんと幸せに暮らしてる。今更、水を差す様な事はしたくない。


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