『それは、大人の事情。』【完】

―――そんなの初耳だ。


「でも、私も残業とかあるし、時間通り迎えに行けるか分からないよ」


困惑する私に、真司さんは部長の権限でなんとかすると言う。


「プライベートな事なのに?」

「二週間だけだ。無理を言って悪いが、上手くやってくれ」


上手くって言われても……海外から担当の商品の問い合わせや発送確認とかもあるし、定時に帰れない事は多々ある。真司さんだって、そのくらい分かっているはずなのに……


それに、こんな大事な事をいつも事後報告で、私に相談すらしてくれない。


「それで、沙織ちゃんが行ってる幼稚園ってどこにあるの?」


そう、それさえも教えてもらってない。


「幼稚園はこの近くなんだ。徒歩十五分くらいかな。だから駅に着いたらそのまま幼稚園に迎えに行ってもらって、歩いて帰って来れる。後で地図を書いておくから」


真司さんが言うには、マンションを借りる時、沙織ちゃんの幼稚園の近くだって事で、ここに決めたらしい。


「沙織に何かあった時、近くに居た方がいいと思ったんだよ。でも、まさか沙織と一緒に暮らす事になるとは想像もしてなかったけどな。とにかく、そういうワケだから宜しく頼むよ」

「うん、分かった……」


不安はあったが、私が頼りだと言われたら断れない。二人の為に私が頑張らなきゃいけないと思ったんだ。


だって、二人は私の大切な家族になるんだから……


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