smorking beauty
スモーキング・ビューティ
***

「……休憩してる気がしないなぁ」

ベージュ色の壁と観葉植物に四方を囲まれた場所で、高階 綾香(たかしな あやか)はひとりごとを呟いて、ため息を吐いた。

綾香は残業時間の憩いのときが案外好きだ。

採光窓から差し込んだ隣のビルの灯りが月夜のように廊下を照らす。それを眺めながら煙草を吸うのも一興、と思うのだ。

でも今夜は、非常階段近くの蛍光灯の点滅のほうが気になった。チラチラした灯りは終日パソコンのモニターを睨んでいた目には、辛いものがある。

そのうえ、冷え込んだ空気を抱いた頑丈だけが取り柄のスチール製のベンチは、腰回りを底冷えさせた。

少しばかり悪条件が重なったものの、疲れた頭をクリアな状態に戻したい、と煙草に火をつける。

すると目の前に設置されている空気清浄機が、これみよがしな唸り声をあげはじめた。

『禁煙』

頭の中に、この単語がチラリと浮かぶ。

―― 喫煙人口減ったもんね。

税金が上がるたびに綾香の周りでも、禁煙しはじめる人間が増えた。この間会った営業課にいる同期も、最近煙草をやめたと言っていた。

他の人間より沢山の税金を払っているのに全く感謝されやしないのは理不尽だ、と本当は声を大にしたいところだけれど、とにかく喫煙者は肩身が狭い。

だからこそ綾香は、こんな人の気配も薄い残業時間の今でさえ暖房も効かない寒々とした廊下の片隅で、ひっそりと煙に癒やしを求めている。

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