それは、小さな街の小さな恋。


「俊ちゃん、おにぎり持ってきたよ。」


いつもはお父さんが座っている診察室の椅子に腰掛けた俊ちゃんの背中は、まるでお父さんがそこに居るみたいだった。


俊ちゃんも老けたな。


「サンキュ。具は?」

「おかかと梅干し。」


そう伝えると満足そうな笑み。


もしも俊ちゃんと結婚したとしても、私達の間に流れる空気は変わらないんだろうな。

お互いに知り尽くしているから、変に気取らなくていい。素の自分でいられる。


そう思うと、俊ちゃんはやっぱり結婚相手として満点なのかもしれない。


「かの。」

「ん?」


診察室を出ようとすると、真剣な顔をした俊ちゃんに引き止められた。


「お前、また太った?」


前言撤回。

俊ちゃんとだけは、絶対に結婚なんてありえない。

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