不倫のルール
「本当に、急ぐから」

振り返った黒崎さんは、無表情にそう言った。

黒崎さんが玄関の戸を閉めた音が、私の中で響いた。

「たかが、熱じゃない……」

玄関先に座り込んだ私は、小さく呟いた。しばらく座り込んでから、ヨロヨロと立ち上がった。

居間に戻ると、テーブルに並べたお料理と、飾った薔薇が目に入った。

「最後なのに、こんなもんか……」

なんて呆気ない別れ方だったのか……

涙が溢れてきた。溢れる涙をそのままに、台所にナイロン袋を取りに行く。

嗚咽しながら、その袋に、並べた料理を突っ込んでいく。

お吸い物は、ちゃんと思い止まった。

「私、冷静じゃん……」

フフフッ……と笑った。笑って、泣いて、また笑って泣いて……私の顔は、グチャグチャだろう。

最後に、薔薇の花束を掴んだ。

「あなたに罪はないけど。ごめんね、こんな風にしか、できなくて……」

大きなゴミ袋に、薔薇の花束を入れた。料理を入れたナイロン袋も、二重にして入れた。

居間に、ペタンと座り込む。……また、一人になった。私が本当に求めるものは、絶対に手に入らない……

そんな考えが、頭を過る。自分で自分を抱きしめる。

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