オオカミくんと子ブタちゃん
*****

遠くからワイワイと楽しそうな声が聞こえてくる…

いいな。

私も混ぜて欲しいな。

声がする方に行きたいけど、身体が重くて動けない。

どうして?

私は、ゆっくりと目を開ける。

木目調の天井?

ここは…どこ?

布団の中⁇

「起きたか?」

私はボーとしたまま、声がした方へ顔を向けた。

「…大賀見?」

「お前、寝すぎ。」

「…えっと、私…?」

なんで大賀見?

私…どうしたんだっけ?

時間が経つにつれ少しずつ記憶が蘇ってくる。

そうだっ

私、大賀見にお姫様抱っこされたまま、気を失ったんだ⁈

「えっと…皆んなは?」

「飯食って、今からキャンプファイヤーが始まるから外に出て行った。」

「えっ⁈もう、そんな時間⁇」

どんだけ寝てたんだ私はっ///

布団から起き上がろうとしたら、大賀見に肩を押さえられ、再び布団に寝かされた。

「お前、まだ熱があるから寝とけよ。何か必要な物があるんなら、俺が持ってきてやるから。」

私が寝ている間、ずっと傍に居てくれたの?

なんだか大賀見の優しさが、じわじわ心に沁みてくる。

「なんか…大賀見が優しい。」

「馬鹿、俺はいつでも優しいだろ///」

プイッと後ろを向いてしまった大賀見の耳が赤くなってるのに気づく。

照れてる?

か、かわいい///

「俺だけじゃなくて、さっきまで涼介もここに居たから…元気になったら、涼介にお礼言っとけ。」

「うん…。」

滝沢くんも居てくれたんだ…。

優衣は?

……当然、居ないよね。


「お前、飯食える?」

大賀見がこちらに視線を戻して、大きな手を私の額に当てながら言った。

「……ううん、食欲ない。」

「そう言うと思って、さっき売店で桃缶買ってきたんだ。それなら食える?」

大賀見は部屋にある小さな冷蔵庫から桃缶を出し、どこにあったのかフォークまで持ってきた。

大賀見が桃缶⁈

なんか似合わないっ。

大賀見が売店で桃缶を買ってる姿を想像しただけで笑えてくる。

「なに笑ってんだよ/// 食わねぇんだな。」

缶詰を開けて桃を1つフォークに刺した状態で、大賀見が照れながら言った。

「ふふふ…ゴメン、ゴメン。桃缶、食べたい。フォーク貸して?」

私はゆっくりと重たい身体を起こしながら手を伸ばす。

大賀見はサッと桃缶を私から遠ざけ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「な、なに?くれないの?」

その笑顔、なんか嫌な予感しかしないんだけど…。

「俺が食わしてやる。あーん、してみな?」

「な、なっ///」

なに、甘々キャラだしてんのよっ///

恥ずかしくて、どんどん顔に熱が集中していく。

顔だけじゃなくて、全身が熱い様な気がする。

「熱、上がってんじゃねぇの?冷えた桃缶が食いてぇだろ?早く口開けろよ。」

確かに冷たい物を非常に身体が欲している。

でも、恥ずかしい///

でも、でもっ、冷たい桃缶を物凄く食べたいっ!

「意地悪…。」

そうボソッと呟き、欲に負けた私は口を開け、桃が運ばれて来るのを大人しく待つ。

大賀見は、ゆっくりと桃の刺さったフォークを近づけてくる。

冷たくて甘い香りの桃が私の唇に触れた。

パクッ…

「う〜ん…冷たくて美味しいぃ。」

私はあまりの美味しさに両頬に手を当て笑顔になる。

「ヤバッ…思ったより、スゲー破壊力…///」

顔を片手で覆いながらボソッと呟いた大賀見。

「え?何か言った?」

「な、なんでもねぇよっ///後は自分で食えっ。」

大賀見はバッと桃缶をこっちに差し出した。

「???」

私はとりあえず桃缶を受け取り、不思議そうに大賀見を見上げる。

「ホント、お前ってタチが悪い。」

「なにが?」

大賀見の言っている事が全く理解できないでいると

大賀見の大きな手が伸びてきて、そっと私の髪をよけ耳に掛ける。

トクンッと波打つ私の心臓…

伏せがちな目で見つめながら、私の頬に手を当てる大賀見。

「冷たくて気持ちいい…。」

熱があるせいか、大賀見の手がとても冷たく感じられた。

私は無意識に頬に当てられたその手の上に自分の手を重ねて閉じ込める。

「ーーっ⁈そういう所がタチが悪いって言ってんだよ///」

私を囲うように左手を床につき、頬に当てている右手で私の顎をクィッと持ち上げた。

大賀見の顔がだんだん近づいてくる。

そして、もう少しで唇が触れてしまうという所でピタッと動きを止め、大賀見が妖艶な目で私を見つめる。

「煽ったお前が悪いんだからな…」

「あ、煽ってなんか…///」

トクンッ、トクンッ、トクンッ、と私の鼓動が加速していく。

大賀見の綺麗な唇が更に近づき

私がギュッと目を閉じた瞬間…

トンットンッ…

「大賀見くん、ここに居るの?」

突然、扉をノックする音がして誰かが部屋に入ってきた。

私たちはハッとして慌てて距離をとる。

スッと襖が開けられて知らない女の子が顔をのぞかせた。

「あーっ、やっと見つけた。」

女の子は大賀見の姿を見つけて、目をキラキラとさせる。

「あんた誰?」

さっきとは真逆の冷めた目で、女の子を見る大賀見。

「私、1年の女子代表として大賀見くんを探しに来ました。相沢 南ですっ。」

ピシッと額に手を当て笑顔で敬礼をした。

あ…この子、知ってる。

いつも周りに沢山の友達がいて、男女共に人気のある子だ。

「ーーで。俺に何の用?」

「もうすぐ、キャンプファイヤーが始まるから呼びにきたの。沢山の女の子達が、恋を成就させたいと大賀見くんを待っているのです。」

「は?絶対に行かねぇっ。」

大賀見は眉間にシワを寄せ、どんどん不機嫌になっていく。

「そうはいかないのっ。ゴメン、小辺田さん、大賀見くん借りてくね。」

と言って大賀見の手を強引に引っ張り、引きずって行こうとしている。

「離せよっ、行かねぇって。」

さすがに女の子の力じゃ大賀見はビクともしない。

「小辺田さんからも説得してー。」

「えっ⁈私?」

大賀見は仁王立ちで私に嫌そうな顔を向けている。

「うっ……。」

私に説得なんて出来ないんじゃないかなぁ……

結構、怖い顔でこっち見てるよ?

「小辺田さんばっかり大賀見くんを独占してるのってズルいと思うんだ。
大賀見くんに頑張って想いを伝えようとしてる子が沢山いるんだよ。」

相沢さんが少し強い視線を私に向けて言った。

そうだった…

キャンプファイアーで告白すると、その恋は成就するというジンクスを思い出す。

大賀見に想いを寄せてる子は沢山いるのに、確かに私は今、大賀見を独占している状況にある。

「私はもう大丈夫だから、大賀見は行っておいでよ。」

仁王立ちの大賀見に外へ出るように促す。

「行くも行かないも、俺の自由だろ。」

大賀見は眉間に皺を寄せ、相沢さんの手を振り払った。

「大賀見が行ってくれなきゃ、私が心苦しいよ。」

本当はまだ熱で頭がクラクラしてるし、この部屋で一人ぼっちは不安だし寂しい。

でも、沢山の女の子が待っているのに、私が独り占めにするなんてこと許されないよね?

「……わかった。10分で戻るからお前は大人しく寝てろ。」

そう言って、大賀見は早急に部屋を出ていき、相沢さんはそれに慌てて付いて行った。

襖が閉められパタンと入り口のドアも閉まった。

シーンと静まり返る部屋…

私は布団に寝転ぶと、さっきの出来事を思い出す。

あれって……キスしようとしてたよね?

再びドキドキとし始める私の心臓。

私…………

全然、嫌じゃなかった。

むしろ、邪魔されて残念とまで思っちゃってる///

どうしちゃったんだろ?

私………………

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