スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
春木リョウのアシスタントは過酷だと聞いて覚悟していたけれど、芸能人の撮影も担当するとは知らなかった。
仕事とはいえ、少しだけワクワクしてしまう。


「正直、結構有名処がくるよ。はしゃがれるのうざったいからギリギリまで教えなかったけど」

「へー!すごいですね!」

「一條岳とか。」

「イチジョウ ガク?」


眉をひそめて聞き返す。
春木さんは突然足を止め、目を丸くして私を見た。


「え……知らないとか言わないよね」

「す、すみません。有名な人ですか?」

「一條岳を知らない25歳、日本であんたぐらいだよ」


はあっと深いため息を吐き、春木さんはまた私に背中を向けた。


「去年の月9で主役やったじゃん。けっこう話題になったけど」

「そうなんですか」

「テレビ観ないの?それとも北海道ではテレビが映らないの?」

「映るに決まってるじゃないですか!私がちょっと疎いだけです!一條岳さんですね、忘れないようにしなきゃ!」


肩に掛けていた三脚を担ぎ直して気合いを入れていると、春木さんが私の顔をジッと覗き込んできた。


「あんたって、」


吸い込まれそうなほど澄んだ瞳に
一瞬どきりと胸が高鳴ってしまう。


「まさに『ヒナ』って感じだよね。」

「え?どういう意味ですか?」

「……いや。」


顔を背け再び歩き出す彼の後を、慌てて追った。
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