スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
特に意味は無かったが、何となくエレベーターではなく階段を使って下まで降りる事を選んだ。

寝起きの体が重だるい。
時間をかけて足を進める。

一階まで降り、自動ドアの向こうに目をやると


「ん?」


ポストの前に、何やら挙動不審な動きを見せる細身の男が立っていた。

春だというのに真っ黒のジャンパーを身につけ、キャップを目深に被っている。
うちの事務所の番号が付いたポストの投函口に、大量の紙を投げ込んでいる最中だった。


いや、紙じゃない?

あれは……



「おい!」



ピンときて声を張り上げた瞬間、俺に気が付いたその男は弾かれたように駆けだした。

自動ドアを開けポストの中身を上から覗くと、やはりヒナを写した写真ばかりが入っていた。
入れそこねて途中で放り出されたものも床一面に散らばっている。


離れていく男の背中を全速力で追った。
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