サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「ど、どうしてそうなるんですか。朝比奈さん、既婚者なのに……」

「あら、あんなに分かりやすいリアクションまでしておいて認めないんだ」

「いや、だから……」


大きな口を開いて、スプーンに乗せられたハンバーグを笑顔で口内に運んだ北沢さん。私が持つ朝比奈さんへの気持ちは完全に見透かしているようだ。


「いいのよ。私は既婚者に手を出す人が悪いとか、そういう固い偏見は持ってないから」

「え、えっと」

「実は私ね、バツイチなの。離婚原因は旦那の不倫だったんだけど、相手の女の子の事は恨んでない。それは、二人の関係がマンネリ化しちゃって、旦那のことをちゃんと愛せてなかった私にも非があったから」

「北沢さん……」

「だから、好きでいるくらい全然問題ないし、もし手出しちゃってる……いや、出されてる方か。手を出されてるとしても、私は仕方ないと思うよ」

「北沢さん……あの、やっぱり、私が朝比奈さんを好きだという前提なんですね」


真剣にロコモコを食べながら、真剣に話をしてくれている北沢さん。

どう足掻こうが、やはり私が朝比奈さんを好きだという事は決定事項らしい。

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