サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
距離



「いつでも帰って来いって……なんでそんなに優しいの」


深月くんがいるであろう隣の部屋と、私の寝室を隔てる壁に手のひらを当てて呟いた。

今日は月曜日。朝比奈さんと遭遇し、深月くんに『戻って来い』と言われたあの土曜日から2日が経った。

私は仕事の準備を既に終えていて、あとは家を出て会社に向かうだけ。だけど、朝比奈さんに会うのが少し気まずくて、ギリギリに出勤しようと試みているのだ。


「はぁ」


深月くんの言葉が何度も頭を巡り、朝比奈さんの『会社の部下』だという言葉が胸を締め付ける。


行きたくない。朝比奈さんに会いたくない。そんな事を思いながら、壁をじっと見つめていた。

しかし、気がつけば時間は10分も経っていた。


もうギリギリまで時間を引き伸ばした。これ以上家を出る時間を伸ばせば遅刻しかねない。

私は重たい足を玄関まで運び、どんよりとした気持ちで会社へと向かった。



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