サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「……その傷のワケ、ちゃんと話せる人はいる?」
「え……?」
彼女の瞳がくるりと丸く開いた。
僕も、自分が言ったことに自分自身が一番驚いた。だけど、ただ単純に彼女の事を放っておけないと思った。
「一人で溜め込むっていうのは、一番最悪な対処法。何の言葉も返ってこなくたって、誰かに話すっていうことができるだけでだいぶ違うよ」
「そう……ですよね」
彼女はずっと目を丸くして驚いた表情でいたけれど、僕が言ったことに共感してくれたのか、深く何度も頷いた。
「話せなかったわけじゃないんです。話す人もいないわけじゃなくて……だけど、怖くて」
「怖い?」
「……はい。朝比奈さんの言うとおり、今、何ていうか、心の中に穴が空いてるような感じで……だけど、その穴を作った原因は紛れもなく私なんです。私が悪いのに、こんな風にいつまでも立ち直れなくて……それを話して軽蔑されるのが、すごく怖くて」
時々かすれる彼女の声。その声で、また泣きそうになっているんだろうな、と察した。