恋するBread*それでもキミが好き
ようやく穏やかな朝を迎えられたこの日、7時前に家を出ていつもの見慣れた商店街へ向かう。

会社までは2駅。通勤に時間をかけたくなかった俺は、二年前にこの街へ越してきた。


人影も疎らでまだほとんどの店が閉まっている中、目的の店に近づくと、俺の眠気を吹き飛ばしてくれるいい香りが鼻に広がる。

自動ドアが開くと、いつもと変わらずあの明るい笑顔が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」

無類のパン好きである俺が『MIYAHARA』というパン屋の味にはまって早二年、素朴だがひとつ一つのパンに店主の愛が感じられる。

手足口病のせいで忙しい日々が続き、この店に来たのは約三週間振りだ。

俺の体がパンを欲しているが、久しぶりだからか、かなり迷う……。

とりあえずおからロールは鉄板だが、もうひとつはどうするかな。

そうだ……


「すいません」ーー


〝彼女〟に声をかけたのはこれが初めてだった。

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