片恋シンデレラ~愛のない結婚は蜜の味~
入社して5年。
同期だった稜真と地道さんの結婚が俺の周囲に波紋を投げかけた。
そして、二人の間には子供が生まれた。
「冬也は結婚しないのか?」

「俺はまだ・・・」
俺はいつものように爺ちゃんから華道の指導を受けていた。
優美な日本庭園を眺めながら花を生ける。

俺の爺ちゃんは560年続く華道家元。
父さんは爺ちゃんの逆鱗に触れて破門。母さんは俺を産んで直ぐに亡くなったらしい。
父さんは俺を捨てて、一人でフランスに渡って華道家…フラワーアーティストとして世界で活躍している。
「私も歳だ。それに右手が思うように動かない。そろそろお前に跡を継いでもらいたい」

「そう言われても…」
爺ちゃんは、2年前に脳梗塞で倒れ、意識を取り戻して元の生活には戻れたが、利き腕の右手が不自由なって思うように花が生けられなくなった。
「仕事忙しいし」
俺は仕事を盾にこの場を逃げ切ろうとした。
爺ちゃんの苛立ちながら花を生ける姿を見ていると胸が詰まるけど。

「私も跡を継ぎたくなかったが…立派に継いで…今に至る」

「・・・」

「まぁお前にも継ぐ気がないんなら、早く結婚して後継者を作れっ。その子に継がせるから・・・」

「後継者!?結婚と言われても相手が居ない」

「私が早急にお前のパートナーを選んでやるから待っていればいい」

「俺に見合いさせるのか?」

「相手が居ないんだろ?」

「…父さんが居るじゃないか・・・」
父さんの話をすると爺ちゃんは忽ち不機嫌になる。

「継ぐ気はない。結婚する気もない。お前は560年続くこの緑川派を断絶させる気か?」

「破門した父さんを呼び戻せばいい話だろ?」

「奈都也はダメだ。私は冬也お前に期待しているんだ」

期待されても…
爺ちゃんの跡を継ぎ、伝統を守っていける自信がない。

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