パドックで会いましょう
最後の願い



日曜日の朝。

僕は重い足を引きずるようにして家を出た。

ねえさんに会いたい。

でも、会うのが怖い。

妙な気分だ。

西宮北口で宝塚線に乗り換えて、窓の外を流れる景色を眺めた。

今日、ねえさんは来るだろうか。

あんな事があったのだから、僕だって本当は顔を合わせづらい。

それでも僕は、ねえさんに会いたい。

ねえさんに会えたら、聞きたい事はいろいろある。

だけど今の僕に、それを聞く勇気はあるだろうか?



競馬場に着いた僕は、脇目もふらずパドックを目指した。

いつものように、ねえさんの姿を探す。

だけどその日、ねえさんの姿を目にする事は、一度もなかった。

僕はレースもそっちのけで、ねえさんの姿を探していた。

それでもねえさんとは会えなかった。

そして、おじさんとも会えなかった。

もしここに来ていたら、一度くらいは声を掛けてくるはずだ。

まだ体調が悪いんだろうか。

おじさんが先週もここに来ていなかった事を思うと、僕は居ても立ってもいられなくなって、最終レースが終わる前に競馬場を後にした。



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