48歳のお嬢様
ケダモノですよ
私はジャズ風アレンジを一曲だけ弾いて、今日は帰ることにした。


「雪恵ちゃんのムーンリバー、今度は弾き語りでお願いしたい……けどダメだよなー残念」


「ごめんなさいね西島さん。
減るもんじゃないんだし、私は構わないんだけど」


「いいえ、雪恵様の美声は、場所を選ばなければすり減ってしまいます」


「ふふふ……和樹にだけ聴いてもらえればいいのよね。
うちのホールでたくさん聴いてちょうだいね」


「はい、いくらでも」


「はぁ……ったく。
こんだけ甘ったるいのになぁ、何やってんだよ花村。
雪恵ちゃん、花村は大学の頃から…『西島!(余計なこと言うとぶっ殺すぞ)』
………おー、怖い怖い。
黒帯の鉄拳が飛んでくるかと思った。目で殺されそうだわ。

ま、気を付けてお帰りください、だ。

本日はご来店誠にありがとうございました」


「今日も楽しかったわ。ありがとう。おやすみなさい」


「おやすみなさい、雪恵ちゃん」


あら……西島さん、今夜は欧米式?
ほっぺにチュッはあまりなれていないのよ私。




店を出ると手配してくれたタクシーが待っていて、寒い中、歩かずに済んで助かった。


ん?和樹、お顔が怖いわよ?


「お嬢様は、隙がありすぎます。
私以外の男性に、気安く触らせてはいけません。
後で消毒しなければなりませんね」


私の頬を撫でながら、悔しいのか悲しいのか、なんだか複雑な顔をしている。


「和樹……。西島さんはアメリカナイズされたミュージシャンでもあるから、
挨拶もあちら風なだけよ?
私は気にしてないわ。馴れてないから少し驚いたけれど」


「彼のさっきのアレは、挨拶以上に下心が丸見えでしたでしょう?
お嬢様はそういうことに疎すぎます。
男はみんなケダモノなのですから、少しは警戒して頂きたいものです」


「そう?……でも和樹はケダモノではないわ」


「………………」





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