尽くしたいと思うのは、
◇謝礼に牽制




わたしの朝は、はやい。

出勤後、30分で会社に着く距離に住んでいるのに、家を出るのは朝礼より1時間以上も前のこと。それまでの時間に色々なことを済ませている。



まずはコピー機なんかの機械の立ちあげ。自分のパソコンも起動させながら、その隙に簡単に社内の掃除をする。

それが終われば朝礼で使うもの────社訓宣言のための以前作ったラミカを出しておく。金庫の鍵を借りた人が記入する名簿も設置したり、とすることはいくらでもある。



常にわたしが1番乗りなわけじゃないけど、誰もいない社内に足を踏み入れることは少なくない。



わたしがしているのは誰にでもできること。だけど面倒であまり好まれない仕事。

そんなことばかりしているから、尽くしすぎだなんて言われるとわかっていても、わたしはこういう仕事が嫌いじゃないんだ。



ようやく自分の席に着いて1日の仕事のこと流れを確認したりしていると、少しずつ周りには社員が増えてきて。



「おはようございまーす」



わたしが求めていた人の声がしたところで、キーボードを叩いていた手をとめた。そして鞄の中から取り出したものを持ち、彼の元へと近づく。



「おはようございます、加地さん」

「ああ、水瀬ちゃん。おはよう」



クールビズ仕様の格好でありながら今日はこの後外回りの予定だから、それなりにぴしりと決まったスーツ。毛先の遊んだ髪に、ゆるく口角のあがった笑みを浮かべた顔立ちはとても綺麗。

ああもう、加地さんって本当に見た目は最高だ。



「で、水瀬ちゃん、その手に持ってるのはなに?」



ぼんやりとしていたわたしは、そうでした! と意識を戻して、軽く頭をさげる。そしてそのまま彼に差し出した。



「金曜日はお世話になりました!」

「んー、お世話って言うほどのことはしてないんだけどなぁ」



肩をすくめるようにして、加地さんは小さく笑った。






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