尽くしたいと思うのは、
◇想いは重い




真由と飲みに行ってからこれといったことはなく1週間が経過した。そんなお昼過ぎ、午前中はいなかった加地さんが社に戻ってきた。

最近できたショッピングモールにある、小さな雑貨店との話が予定よりはやくまとまりそうだと、いい知らせを持って帰ってきたものだから事務所内が明るくなる。

さすがだのなんだの言われる加地さんが軽やかに笑う姿にそっとわたしは胸を弾ませた。



そして今は盛りあがりが落ち着いて、彼は席に着いている。

うなじにかかる髪と、しっかりとした首筋。まくられたシャツからのぞく腕。分厚い紙の束がかんたんにつかめる大きな手はごつごつと男らしくかっこいい。



事務室の対極にいるというのに、わたしは何度も加地さんに視線をやってしまう。

なんて不真面目なんだろう。同じオフィスだからできる贅沢だ、と表情をどんなものにすればいいかわからなくなる。



オフィスラブをしている人はいったいどうしているの?

こんなにもどきどきして。こんなにも視線を奪われて。こんなにも心がとらわれて。

わたしにはとても難しい。うまく隠すことなんてできない。



書類の整理を進めながら、ちらちらと視線をやっていると、それに気づくことなく加地さんが立ちあがる。そしてそのまま事務室から繋がる給湯室に向かった。

紙の束に目をやること、一瞬。きりがいいところまで進んでいることを確認して、自分のマグカップを片手にわたしもあとを追った。



「お疲れさまです」



すっと伸びた背に声をかける。振り返った彼が水瀬ちゃんもお疲れ、と笑う。

手元ではマグカップを出したり、棚からコーヒー粉をおろしたりと準備中。まだコーヒーは淹れていないらしい。



「わたし、淹れますね」

「ありがとう」



彼のあとを継いで、ポットのお湯を注ぎ口の細いドリップポットに移す。ペーパーフィルターにコーヒー粉を入れて、ゆっくり円を描くように湯をかけていく。

ぽたぽたと深い色に染まった液体が底からおちる。



完全に落ちる前に、と自分のマグカップを軽く洗う。その際に洗剤が少なくなっているのに気づき、棚から補充用の洗剤を出していると、その様子を見ていた加地さんが呆れたような声を出す。






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