消えて失くなれ、こんな心
永遠のさよなら



雨は止んでいた。一時的に、水の循環が止まる。雨は止めてやったぞ、さあ行ってこい、と言われているような気分だった。


どうやら彼女は柊茉優の現在の居場所を知っているようで、その足取りからは迷いは見られなかった。出会ったばかりのはずの彼女が、柊茉優のことも岡崎拓海のことも知っている。そして彼ら2人は、僕の過去を語るうえで重要な鍵を握っている。


突然現れた、僕と瓜二つの彼女。死にたがっている彼女。柊茉優と岡崎拓海を知っている彼女。彼らに復讐をしたい彼女。


僕たちと彼女を繋ぐものは、一体何だというのだろう。僕でさえ知らない柊茉優の居場所を、どうして彼女が知っているのだろう。


確かに彼女は、もう一人の〈僕〉だ。それは出会った瞬間からわかりきっていることで、だけど一方で僕とは全くの別人であることもわかっている。僕の記憶の中で〈僕〉のような彼女は存在しなかった。つまり彼女は、僕の過去にいたことが一度もない。この矛盾した存在は、一体どこからやってきたのだろう。


駅のある方向へと歩き進める僕たち。小さな駅だ。中にはこぢんまりとしたコンビニエンスストアがある程度で、おそらくこの周辺で暮らす人々にしか需要はないのだろう。駅へ向かう道の途中で、昨日彼女と出会った――厳密に言えば、彼女が死のうとした――踏切を横目に見る。今なら、あの踏切へ彼女を連れ込んで死なせてあげられると思う。死にたかったんだろう? じゃあ、さようなら。そう言って、迫り来る電車なんか気にせずに、むしろそのタイミングに合わせて、彼女を踏切の中に放り込むことだってできる。簡単なことだ。


でも今はきっと、そんなことをしても意味がないのだと思う。だってそれは、彼女が僕に課した死に方ではないから。


――私を殺してください、と言ったらどうしますか?


彼女にとって確実に死ねる方法が、誰かに殺されるということだ。自分の力で死ねなかったのだから、誰か、自分とは別の人間によって死んでいくしかない、というのが彼女の出した結論なのだろう。


そんな彼女が、今は誰かを殺そうとしている。復讐をして、それから死ぬ。なんて自分勝手な考え方なんだ。生き物なんてどうせみんな死んでいく運命なんだ。僕たち人間に限ったことじゃない。早いか遅いか、ただそれだけの違いなんだ。復讐なんてしてもしなくても、ゴールは一緒じゃないか。


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