消えて失くなれ、こんな心
タイトル未編集



「君は誰かの恋人?」


彼と離れてしまった、という彼女の言葉が、僕の中でずっと引っかかっていた。離れてしまったのなら自殺しようとする前に探しに行けばいいのに、と思ったのだ。もしかすると僕のそれは子供のような考え方で、彼女にとっては死にたくなるほど大切な恋人だったということなのだろうか。いずれにしても、僕と似たような瞳をした彼女に、そのような存在がいるということが意外だった。


「恋人なんていう生易しいものではありません」


家ばかりが並ぶ街の中で再び僕の前を歩く彼女は、やはり僕と顔を合わせようとはしない。


「ちょうどいいですから」


さっきまで後頭部しか見えていなかったのだけれど、その言葉と共に彼女の左耳が見えたものだから、僕は彼女がようやくこちらを向いて言葉を交わしてくれるのだとばかり思っていた。彼女は足を止めた。それと同時に、パステルブルーのスカートが、ふわりと揺れた。


その瞬間、赤色と言うべきか茶色と言うべきか、はたまた両者の特徴を持った色と言うべきなのか、とにかくそのような色のシミが見えた。あの一部始終を見ていた僕には、それが一体何なのか、考える前にわかってしまった。あれが、ただのシミで終わらせられたらいいのに。永遠のさよならをしたはずなのに、柊茉優は彼女の洋服に染み付くことで存在感を見せつけていた。


「あそこで少し、休憩していきましょう」


顔の左半分はほとんど見えなかった。スカートに付いた柊茉優の一部を気にする様子もなく、彼女は左前方にある小さな公園を見ていた。僕と目を合わせてくれるかもしれないという思考は、どうやら僕の早とちりだったようだ。


その公園は、公園と呼ぶにはあまりに寂れすぎていて、来れば遊びたい気持ちを吸い取ってしまうような、そんな雰囲気を醸し出していた。でもそんな雰囲気の公園が、今の僕たちにとっては最適の休憩場所だった。小さな子供たちが喜んで遊ぶような公園は、復讐を果たすためにここにいる僕らには似つかわしくなかった。


ペンキが剥げているのに加えて落ち葉や土で汚れた2人掛けのベンチに、彼女は躊躇することなく座った。柊茉優の血で汚れたナイフが、彼女の手の中から鈍い光を放っていた。それはまるで、次の獲物を確実に仕留めるために息を殺してその機会を伺っている猛獣のようだった。もしかしたら百獣の王にも勝てるのではないかという気すらしていた。


彼女が片側に座っていたため、僕はその隣に腰を下ろした。


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