逃げ惑う恋心(短編集)
「大ちゃんどうしたの、用事ー?」
「いや、なんとなく。しばらく来てないなって」
「連絡くれれば起きてたのにー」
「良ちゃんも連絡くれたら来なかったのに」
「なんでー?」
「美桜がいるなら来なかったってこと」
「美桜ちゃん? いつもいるよ」
「あ、そう……」
ついにため息。連絡するまでもなく、いつ来ても美桜がいるってことか。
「大ちゃんにはもう部屋にいたずらしないよう言っておいたから。また何かしたら、次に大ちゃんと会うのは法廷」
ココアをテーブルに置きながら、美桜は何やら恐ろしいことを言う。それを聞いた良ちゃんは「こわいこわい」と笑った。
「じゃあ良くん、わたしこれから打ち合わせあるから行くね」
「うん、ハンバーグ」
「はいはい。大ちゃん、またね」
「ああ、うん……」
なんて言葉が少ないふたりだ。良ちゃんらしいっちゃあ良ちゃんらしいし、美桜らしいっちゃあ美桜らしいけど。
良ちゃんとは長い付き合いだから、みんなからよく「大輝は良ちゃんの保護者」とか「ド天然の良ちゃんをうまく扱えるのは大輝」とか言われるけれど。一番の保護者は美桜だと思う。