逃げ惑う恋心(短編集)
逃げ惑う乙女心


 夜、寝る準備をしていたら、柳瀬さんからの着信。
 何事かと思ったら「明日東京戻るんだけど、土産とかいる?」とのこと。

「ええ? お土産なんていいですよ」

「はあ? せっかく福岡来てんだから、なんか食いたいもんとか欲しいもんとかねえのかよ」

「欲しいものですか……。そうですねえ、強いて言うなら牛乳が切れたので欲しいです」

「コンビニかスーパーで買え」

「はい、明日買って帰ります」

「いや、待て。買うな」

「え、でもシリアル食べたいし……」

「なあ。明日の夜、部屋行っていいか?」

「あ、はい、大丈夫です」

「じゃあ明日」

「はい、お待ちしてます」

 結局話がまとまらないまま短い電話が終わって、首を傾げながらベッドにもぐりこむ。
 なんだったんだろう……。


 柳瀬さんとお付き合いを始めて一週間。
 でも柳瀬さんは舞台の本番中だし他のお仕事もあるから、この一週間一度も会わなかった。から、ようやく会えると思うと嬉しくてたまらない。

 片想い歴数年。いとこである春くんの紹介で知り合って、何度も三人で出かけているうちに、いつの間にか恋をしていた。けれど相手は人気の舞台俳優。何度も諦めようと思ったけれど、募った気持ちを捨て去るには、時間が経ち過ぎていた。

 それが春くんと、会社の先輩江口さんのお陰でお付き合いをさせてもらえるようになるなんて。
 もしかしたら、今が人生で一番幸せな時期かもしれない。

 なんて。柳瀬さんには話していないし、恥ずかしいからこの先も話さないと思うけど……。



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