青の哀しみ
八広浩太
鍵を開けて玄関を見ると、汚れたスニーカーが一足あった。

あれ、まだいるんだ。

私は穴の開きかけたコンバースの靴を脱ぎながらそう思った。

キノの足を拭いて家の中に入ると、八広さんがソファにだらりと座って新聞を読んでいた。

寝癖のついた髪を直さずに、眠たそうな目をしている。

台所を覗くと、きちんと皿が洗われていた。

それを見て私は苦笑いをした。

「私が洗ったのに」

「いや、暇だったから」

「仕事、いかなくていいの?」

「今日、日曜……」

「そっか。曜日の感覚がなくなるんだよねぇ」

独り言のように呟くと、手を洗ってパンをトースターに投げ入れた。

しばらくすると、チンッと甲高い音が聞こえたので、パンを出してマーガリンを出した。

八広さんはそれを横目でちらりと見た。

「食べる?」

「いや、いいよ。パンと目玉焼き食べたから」

「そう。でも八枚切りで足りたの?」

「うん。ヨーグルトも用意してくれてただろ。お陰でお腹いっぱいだよ」

八広さんは小食だった。朝だけではなく、夜もあまり食べない。

私よりも食べるが、それでも男の人にしては少ないと思う。

すらりと高い背は、180cm近くあるだろう。色は白くて、細い体はほとんど肉がついていない。

だけど毎晩筋トレをしているせいで、筋肉はあった。

顔は童顔で、目が大きく、犬を思わせる。


< 10 / 11 >

この作品をシェア

pagetop