探偵の彼に追跡されて…
警察署を出ると見覚えのある車があった。所長は後部座席のドアを開ける。そして聞き慣れた声が掛かる。

「美野里さんお疲れ様!」

いつもの様に運転席から笑顔を向けてくれる渉君。

「渉君?… 渉君も待っててくれたの? ごめんね?」

「所長は帰っていいと言ったけどね? 色々と聞かれて疲れてるのにタクシーで帰るより慣れた車のほうが良いかなって思って。それに弱ってる美野里さんを所長が襲わない様に見届けないとね?」

「………」

渉君は私の気持ちを上げようと少し巫山戯て見せたようだが、『襲うと』言う言葉に反応してしまった私は肩をビクッと震わせ、所長はそんな私の肩をギュッと抱きしめてくれる。

「渉? 疲れてると思うならさっさと車出したら?」

所長の口調は柔らかいが顔はとても厳しい顔をしている。

「あっ… すいません…」

渉君は、はっ!とした顔をして車を静かに走らせた。

所長や渉君だけでは無く堤下警部補さんや皐月さん、一条さんも私を心配し気遣ってくれて居ると感じる。本当に有り難く思う。

今日事務所を出る時に渉君は「お守りだよ!」とシルバーで出来た可愛いクマのトップの付いたネックレスを私に掛けてくれた。

渉君は仕事終わりに少し車を流していたら盗聴傍受機から私の声が聞こえて来てただならぬ様子に驚いて私の家を知らない渉君は所長に連絡をしたらしい。

そしてタクシーで駈けつける所長を待って私の部屋へ助けに来てくれたと言う事らしい。

私は知らなかったが渉君が『お守りだよ』と、くれたネックレスのトップのクマが盗聴器になっていたらしく私と鶴見君のやり取りを録音出来たと教えてくれた。

所長はまさかこんなに早く鶴見君が動くと予想していなかったらしく所長は自分を責めるように苦しい顔をして何度も私に謝ってくれる。

所長のせいじゃないのに…

鶴見君にされた事より、所長をこんな顔をさせてしまっている方が私の胸は痛い…

私の周りで起こっている事をもっと早い段階で警察に相談していたら少しは変わっていたかも知れない…

もし… 私が鶴見君にもっと話しかけていれば鶴見君もこんな事をせずに済んだかも知れない…





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