窓ぎわ橙の見える席で


「宮間さんがフレンチレストランやったら、大繁盛するよね」

「………………………………誰が?」


言っている意味がよく理解出来ない。


「宮間さんが」

「何を?」

「フレンチレストランをやったらいいんじゃないかって思ったの」

「……………………………………いいよ、そんなの」


あはは、と渇いた笑いを返してグビッとコーヒーを飲んだ。
横目で辺見くんを見たら、あれだけヘラヘラ笑っていたはずの彼が笑っていなかった。
真っ直ぐにこちらを見て、視線を外そうともしない。
あまりにも鋭い目つきだったからドキッとした。


「宮間さん、嘘はよくないよ」

「は、はぁ?私、嘘なんて何も」

「違ってたらごめんね。もしかしてフレンチレストランで働きたいのかなって思ったから」

「違うよ。定食作るの好きだもん」

「うん、分かってるよ。定食はどれも全部美味しいし、お弁当もすっごく美味しい。僕が言ってるのは宮間さんの本心のこと」

「なにそれ」

「だって今みたいに綺麗に盛り付け出来るのに、トキ食堂ではしてないよね?」

「求められてないんだもの、仕方ないじゃない」


ヤバい。
心の奥底にしまい込んだはずの「後悔」と「願望」が表に出てしまいそう。
そんなものはこの街に戻ってくる時に捨ててきたはずなのに。


「この話はやめよう、辺見くん」


私がそう言うと、辺見くんは「じゃあ聞くけど」と続けた。


「宮間さんはどうしてこの街に戻ってきたの?東京の一流ホテルのフレンチレストランで8年もバリバリ働いてたんでしょ?それを辞めてここへ帰ってきたのはどうしてなの?」


私はただ静かに、見たことのない辺見くんの真剣な表情をぼんやり眺めるしか出来なかった。











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