窓ぎわ橙の見える席で


それで、ある時尋ねてみた。


「変人くんってさ、どうしてそんなに生物が好きなの?人間は?ほら、藤枝さんみたいな可愛い子が同じクラスにいるんだから、そういう子に興味持ったら?」


藤枝さんというのは、地元でも有名な資産家の娘で超お嬢様。
見た目も麗しく、可憐で清楚な彼女は学校中のマドンナ的存在だった。
そんな子がせっかく同じクラスにいるというのに、見向きもせずに机にかじりついているというのは年頃の男子としていかがなものかと思ったわけ。


余計なお世話とはねつけられるかと思ったのに、そこは穏やかな性格の変人くんらしくアハッと笑ってポリポリと頬をかいた。


「僕は恋愛には興味が無いんだ。恋愛よりも生き物を見ていたい。ひたすら見ていたい。人間って口があって声帯があって知能があって脳から言葉を伝えるように指令が下るでしょ?気持ちを知ろうと掘り下げなくても勝手にしゃべってくれるから、だから興味が持てないんだ」

「はぁ……」

「それに比べて人間以外の生物は言葉が無くても生活している。凄いと思わない?誰に習ったわけでもないのに、馬や鹿は産まれてすぐに立ち上がり、母親の乳を飲む。ウミガメは産まれたら海に向かう。鳥は飛ぶようになるし、ペンギンは泳ぐようになる。考えるだけでワクワクしない?」

「はぁ……」

「あと、藤枝さんは僕の好みじゃないんだよね。雌として魅力を感じない」

「め、めす…………」


クラスメイトを雌とか言うなよ、というのは我慢して、私は彼の手元にある何冊ものノートやファイルを勝手に読んだ。
実に読みやすい文字と読みやすい図式、分かりやすい絵がふんだんに盛り込まれた「変人くん図鑑」みたいなものだった。


ミドリムシ最強説と銘打たれたページには、ギッシリとそれに関する情報が書き込まれている。
それこそ私にはなんの興味も無いので頭に入ってこなかったんだけど。
たまたまそのページを開いていたからか、聞いてもいないのに辺見くんが教えてくれた。


「うちで飼ってる猫の名前は、ミドリっていうんだ。ミドリムシから取ったの」

「…………へ、へぇ〜」


微生物から取ったって言わなければ、可愛い名前だって思ったかも。
もちろん、口にはしないけどね。


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