窓ぎわ橙の見える席で


これが生理的に受け付けない人であれば即刻ビンタでも食らわしてやりたいところではある……けれども。
不思議と嫌じゃないから困った。


横目で辺見くんをチラリと見る。
彼は私の耳たぶを真剣に眺めており、指で穴の開いた部分を確かめるように触っていた。
何か大事なものでも扱うみたいに、そっと。
その仕草がやけにくすぐったい。


一重の涼しい目は伸びきった前髪のせいかちょっと邪魔そうに細められていて、地味な顔立ちなんだけど悪くはないその顔は、どこか生き生きとしていた。
ボロボロになるまで着古した服なんか捨てて、新しいちゃんとした服を着て髪も切ったなら、わりといい男なんじゃないのかと思った。
いや、決してモテる顔ではないのだけれど、そこそこのレベルにまでは持ってこれると思うのだ。


「今度……良かったら一緒に服でも買いに行かない?」


耳たぶをフニフニ触られている状態で、思い切って買い物に誘ってみた。
はたから見たらすごい状況である。
辺見くんは案の定、あまり興味が無さそうに気のない返事をした。


「んー、服?いいよ、いらない。間に合ってる」

「今着てるのボロボロだよ?知ってた?」

「ちゃんと洗濯してるよ」

「そうじゃなくてさ〜……。あ、じゃあ美容室紹介するから髪の毛切っておいでよ!」

「そんな時間あるなら寝ていたいな〜」


あぁ、そうかい。
私と過ごす時間は無駄ってわけかい。
この人を改造するには根気が必要らしい。


でもこの返答でよ〜く分かった。
彼は高校時代と変わらず、私自身には興味は無いのだ。
ピアスの穴がどんなものなのか興味はあっても、私には興味が無い。
私が作る料理に興味はあっても、私には興味が無い。
食べることは好きだから食事に誘えばついてくるかもしれないけど、買い物なんかは一刀両断でお断りなのだ。私と一緒にいる意味が無いのだから。


瞬間、イラッとした。
それが何故なのかは分からないけど、とにかく無性に変人というあだ名がピッタリのこの男に、ものすごくイラッとした。


「辺見くん。青になった。おしまい」


ボソッとそう言って、右耳にまとわりつく辺見くんの手を払い除けた。
彼は私のその行動を気に留めることもなく、「ほんとだ、ありがとう」と笑って車を再び発進させたのだった。












< 66 / 183 >

この作品をシェア

pagetop