窓ぎわ橙の見える席で


厨房の片付けを終えて冷蔵庫の在庫チェックをしていたら、カウンターから涼乃さんが覗き込んできて


「つぐみちゃん、ちょっとこっち来れる?」


と手招きしてきた。
はい、と持っていたバインダーを消毒したばかりの調理台に置いて厨房からホールへ出る。
そこには先ほど倒れていた男性が、食べ終わった器を乗せたトレイを持って立っていた。


「大変美味しく頂きました。ごちそうさまでした」


と、ご丁寧に深々と頭まで下げられてしまい、私までなんだか恐縮して頭を下げる。


「完食ありがとうございます。倒れるなんて相当お腹が空いてたんですね」

「最後にちゃんと食べたの、3日前だったんで」

「そうですかー……、………………って、ええっ!?」


3日前!?
あなたそれで人間として大丈夫ですか!?
よく3日も生きられたもんだ。
そんなに貧乏人なんだ、この人……。


ジロジロと彼の姿を眺める。


なんというか、非常に重苦しい野暮ったいくせっ毛のうねった黒い髪。
これはおそらく数ヶ月は美容室などには行っていないであろう、伸ばしっぱなし以外ないヘアスタイルだ。
そうか、カット代も払えないほどお金が無いんだね。

コートの中に着ている白いシャツも、なかなかの年季を感じるボロさ。
汚くはないんだけど、全体的にボロいものしか身につけていない。
そうかそうか、洗濯する余裕はあるけれど服を買うお金は無いんだね。

ひょろりとした痩せた体型。
そりゃお金が無いんだもの。
食事も満足にとれないんだわ、きっと。

身長はまぁまぁあるけど、宝の持ち腐れ。
もっと見た目の素敵な人だったならいい武器になっただろうに。残念無念。

一重の目に、薄めの唇。
鼻は……あれ、意外と低くない。
顔だけの印象ならそんなに悪くはない。ただし、悲しいことに良くもない。
地味な顔立ちのわりに頑張ってるよ、あなたの顔面。

おそらく年上かな。
クマもすごいし、若々しさみたいなものが一切感じられない。

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