私は、エレベーターで恋に落ちる
二人のやり取りの細かいところは、全然分からないけど、
とにかくシステムの問題じゃなく、人為的なミスだからと、
伊村さんじゃない方が、伊村さんに言い聞かせていた。
「なんてこった」
と言ったのは、伊村さんだ。
「システムには、今のところ問題はない。明日にでもきちんとした検証をして、報告書を出そう」と言ったのは、伊村さんじゃない方だ。
「ああ」
伊村さんが、力なくうなだれてる。
「まあ、彼女が余計なことをしてくれたおかげで、助かったじゃないか。
これが先にトラブルになってから、クライアントの耳に入ったら、ただじゃ済まなかった」
「えっと……」
私は、口を挟んだ。
結局私は、どうなるんだ?
「ごめんね。篠崎さん。手荒く扱ったりして。でも、エレベーターは、ちゃんと正しい方法で乗ってね」伊村さんの同僚が答える。
伊村さんは、まだ、納得出来ないって顔で私を睨んでる。
「ちゃんと彼女に謝ってくださいね」
伊村さんが叱られてる。
「すまなかった。申し訳ない」
彼は、深く頭を下げた。
でも、声に心はこもっていない。
ふん!
許すもんですか。