しましまの恋、甘いジレンマ。
山田家の人々

父は高校の校長。母は数学教師で担任もち。そして、驚くことに
そのどちらの一族も皆そろって職業は教師。こんなにも同じなんて、
よっぽど先生というお仕事は楽しいのだろうと昔は思っていた。

でも親が学校関係者だと当然イベントはかぶるのでぼっち。

テストがあると隠すことが出来ず、まるわかり。

「やーい!しまのパンツはシマシマパンツー!」
「しわしわパンツー!きたねー!」
「やめとけ!こいつん家はせんせーだから怒られるぞ!」

若干威厳が出るのでそこは少し助かった。かもしれない。

あれから何年たったっけ?気づいたら自分も学校で仕事をしている。
といっても教師じゃない。事務職員。でも、採用試験に実は二度落ちた。
三度目もダメだったらどうなっていたのか。OL?アルバイト?

どっちにしろ家に居づらくてひとり暮らししていただろう。

「はぁ…疲れた」

実家ぐらしは楽でいい。

けど、刺激も無くてふと毎日が同じことの繰り返しに思えてくる時がある。
どっちが幸せだったのか今でも分からないけれど、安定した生活に不満は無い。
そんなぬるま湯にどっぷり浸かる人生を謳歌してきた山田志真。

あと数ヶ月で30代突入。

「おかえり、志真」
「ただいま」

帰宅するなりせわしなく夕飯の準備をする母は今年で定年退職。
未だそれが実感できないと冗談交じりに言っている。バリバリ働く姿を見ていると
志真も同じ意見だ。

「沙苗おばさんなんだけどね」
「うん。どうかした?」
「この前調子が悪いって検査したんだけど、今日結果が出て。胃癌だって」
「え。そ、そうなんだ。じゃあ手術?」
「体が持つかどうか分からないけど、おばさんの意思で手術するみたい」
「そう。私、お見舞いにいってくる」

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