しましまの恋、甘いジレンマ。

今日はもう遅いのでコーヒーを飲みに行くのは明日にして。
お茶を飲み終えるとさっさと庭へ戻っていく知冬。
志真はのんびりと読みかけの小説を取り出して優雅な午後。

実家に居た頃も部屋でゴロゴロと寝転んではお菓子を広げ
雑誌を見ていたからあまり変わらない。

「花の絵ですか」

飲み終えたカップを片付けて好奇心から庭へ。
あまり近寄ると良くないかなと思い3歩ほど離れたところから
彼が真剣に見つめているキャンバスを覗き込んだ。

「これが魚に見えますか?」
「……見えません」

まだ色はついていないけれど、庭にぽつんと咲いている花の絵。
それはおばさんが世話したものではなくて、何処からから種が
飛んできたのだろう。
近隣さんは何処も花壇を作ったりお花を植えたりしているから。

「……でしょうね」

知冬はキャンバスと花を交互に見つめながらちょっと鬱陶しそう。
でもあっちへ行けとは言わずにただひたすらに手を動かす。

「……」
「……」
「……」
「……、言いたいことがあるのなら言ってもらって結構ですよ。
そうやって何か言いたげにじっと見つめられるのは気持ちが悪いです」

でもほら、喋りかけたら怒られそうな雰囲気がするから。
だったらすっ込んでろという話になるのだが家の掃除をするのはもう疲れたし、
せっかく間近で画家が絵を描いている所を見られるのなら見学したい。

「見てるのはダメですか?」
「……、俺をですか」
「はい。あ。いえ、あの。変な意味じゃなくって」
「どうぞお好きに。ただ、あまり睨みつけないでもらえますか。気が散ります」

じーっと見つめるのはダメでもちょろっと眺めるくらいならいい、ということかな。
でもそれって意外に難しい。
よそ見をしながらたまに絵を見て、またよそ見をしながら絵を見て。

「あ。そうだ。布団取りに行かないと」

何度目かの視線を逸らした時に布団を屋根に干したのを思い出した。
まだ外は明るいけれど、3時を過ぎたしもうそろそろ入れたほうが良い。

「……」
「だ、大丈夫ですよ。ささっと取ってささっと戻るから」

家にはいろうとしたら
知冬が今にも怒鳴ってきそうなくらい怖い顔で睨んでいた。

「今日だけですよ」
「でもほら全然大丈夫だったし」
「今日だけですから」
「はい」

知冬さんは心配性だ。
それって私が彼にとってか弱い女だから?それとも?
何でこんなことが気になるんだろう、私。
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