しましまの恋、甘いジレンマ。
言葉にはしないけれど

これってやっぱり勝手に舞い上がってるだけなのかな。

知冬と志真の体の距離自体は全然近くない。
というか、触れることがまずない。別に志真を嫌悪しているという事も
ないと思うし、女性扱いはされている。それはもう過剰なくらい。

「……」

志真だって異性に興味がないわけではない、
憧れたり気になったりした人は過去にいるけれど、ただそれだけで
自分から積極的にアタックなどはしなかった。

「……」

でも、この数日一緒に暮らしてみて知冬が気になる自分が居る。

これは確かな気持ち。

「……」
「流石にコーヒーを飲んですぐ紅茶は飲めません」
「私も無理です。また今度紹介しますね」
「ええ」

知冬の隣を少し距離をおいて歩きながらチラチラと見ていたら目があう。
お店を出て、車を別の駐車場にとめてから少し腹ごなしに街を歩く。
そう提案したのは志真。

まだお昼を過ぎたくらいで時間はあるのだからと誘ってみたのだが。
絵を描くと断られるかと思ったが案外すんなりと了承してくれた。

「パリの街並みとかポストカードとかテレビでしか知らないけど綺麗ですよね」
「観光地はそれなりに整備はされていますね。俺は南部に住んでいるので」
「南部というとニースとか?カンヌとか?モナコ…は、違うか」
「そうですね。その辺ですよ」
「暖かそう。いいなあ」
「行きたいですか?」
「そりゃ憧れはしますけど。母親が今年定年なので誘って一緒に」
「……」
「……、…い、…いやでも、その、治安が心配だからやっぱり国内かなあ!」

なに?この冷めた視線は何?どういう意味があるの?
もしかして連れて行ってくださいとか言えってこと?

そりゃ現地の人と一緒なら心強そうだけど、彼の場合笑顔で
観光地にぽつんと放置されて泣きを見るイメージしかわかない。

「日本の街並みも悪くはないと思います」
「そうですか。良かった」
「なぜ?」
「母国…とはいわなくても、半分は日本の方だし。やっぱり好きで居て欲しいです」
「……」
「私が日本人だからそう思うのかもですね。ごめんなさい、押し付けがましいかも」

ハーフさんは難しい問題も多く抱えると聞く。知冬も両親のことは語らないが
恐らくは離婚してフランスへ行ったと思われるのであまり深入りはしないでおこう。

「……好きですよ」
「そうですか。良かった」
「…とても。好きです」
「よっぽど気に入ったんですね。あ。絵の題材にするとか?」
「……、そうですね。いずれは」

もしかしたら嫌な話をふってしまったのではないかと心配したが
相手は特に辛そうな顔はしていなかったから、志真は安心する。

「そうだ。ついでに夕飯の買い物もしていこうかな。何がいいです?」
「何でも。と、言うと不興を買うそうなので。見てからでもいいですか」
「はい。あ。カタツムリ?食べます?カタツムリ」
「エスカルゴのことですか?食材があればいいですけどね」

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